無の庭ができるまで
はじめに
昨今、社会状況から建築や庭園を維持管理できず困っている方が多く、メンテナンスができるだけかからず、とは言え無機質で殺風景でもない庭園空間を望まれるようになりました。今回、これからの新しい時代の庭造りモデルとして、不要な物は無くすが大切な物は残す”無の庭”を実験的に作成しました。
玄関前の目線をそらす工夫
ファサードは看板兼門柱を作った事で玄関へ行く目線を道路からそらし、西風を遮ると共に看板へ目線を誘導しプライバシーを確保します。
看板兼門柱はマットな色合いで落ち着いた雰囲気を産み出しました。灯篭は単なる添景物ではなく西方の方角を献灯し、お彼岸、お盆には灯をともせるようになっています。
重機、人力、古来からの知恵を集結させていきます。
危険も伴うので、チームワークと仲間同士の信頼が大切です。
縁側を感じさせる空間を
庭は生活必需品ではありません。ただ単に美しいという飾りでもありません。機能美と美観を兼ね備え、時代のニーズをくみ取り、歴史と共に変化してきました。 伝統工法を駆使しながら現代社会にマッチさせていく事が大切です。ガレージでありながら庭園空間である。無機質ではなく温かみがある。プライバシーは守れるが、気配は感じられる。そんな京町屋のような空間は 近隣の方との共有空間でもあります。”無の庭”では縁側のような空間を目指し設計しました。
後世にまで受け継げる庭造りを
10年ひと昔と言いますが、日進月歩で社会環境が変化していきます。科学・技術・医療の発達に戸惑いながら何故、庭は必要かと考えることがしばしばあります。無意識の中に欲する存在でありながら価値を確立できないケースもあります。持続可能という言葉は形が変わっても進化しながら思いや志、魂を受け継ぐことかと思います。
小スペースから自然の恩恵を
”無の庭”は生まれるべくして生まれたデザインを継承しつつも、現代社会の循環に入り込んでいくための空間です。わずかのスペースに生まれた緑の空間に土や水、空気や太陽の恩恵を思い出し、情報化されたバーチャルではないリアルの世界で自分自身と向き合います。日常空間でありながら非日常空間を兼ね備えます。
庭を通して生活を豊かに
我々庭師は、まずは知り、学び考え、試行錯誤お施主さんの潜在イメージを具現化し、内面から表現していく職種だと考えています。庭を通じ、生活を豊かにするお手伝いがゆくゆくは社会貢献につながればという壮大なテーマで取り組んでいます。
素材の持ってる個性を活かして
谷崎潤一郎の陰翳礼讃に「掻き寄せて結べば柴の庵なり解くればもとの野原なりけり」とありますが、夜間に限らず陰影や石や樹木の持っている個性を活かし日本古来の奥深さを追及します。
「無一物中無尽蔵」
この言葉は我々が最も大切にしている言葉で、人間は誰しも生まれた時は何もなく、無いという事は無限大の可能性があるという事だと思います。 我々庭師はどんな所でも自分の心を”無の庭”とし大切な物を守っていきたいと思っております。